今朝、神へ祈りを捧げた唇が、しどけなく開いたまま嬌声を上げる。

 飲み込もうとしても、初めて味わう刺激はどうしようもなくカレラの理性を奪って、逆に快楽の渦へと深く飲み込んでいった。

 しかしその背後で、罪の意識が冷たく脳裏を掠める。

 肉体の快楽を戒める禁欲と。

 男同士の、しかも吸血鬼と交わる禁忌と。

 聖人の堕落と。

 幼い頃から絶対だった教えを何重にも犯す罪。それでも――

「ヴィン……セン…ト、」

 どうしようもなく惹かれる。

 涙で曇った瞳でヴィンセントを見上げ、ねだるように掠れた声で名前を呼ぶと、すぐに優しい唇がやってきて深く互いを重ね合わせた。そして誘われるがままに拙い舌を絡ませると、ヴィンセントの指が一層強く動いた。

「はなし…てっ、――あ、アッ――で…るッ」

 それが何かすら知らないくせにそう訴えて身悶えるカレラを、ヴィンセントはしっかりと握り込み、先端を指で弾いた。

 びくっと白く華奢な身体が跳ね上がる。

 初めての解放に震えるカレラを抱え、ヴィンセントは情欲に濡れた赤く光る眼で、その顔を覗き込んだ。

 愛しい――……

 未だかつて抱いたことのないこの感情は、そう例えるのだろうか。

 意味をなさなかった言葉が、鮮やかに色付いて心に刻まれる。

 吸血鬼である自分に全てを預け、与えられるがままに受け入れようと懸命に縋りついてくるカレラが、愛しい。

 甘い吐息にわななく唇も、涙を溜めた瞳も、汗で頬に張り付いた髪も、すべて。

 すべてが愛しさを掻き立てて、身体中の至る所に深くその根を張り巡らせていくようだった。

 強張った身体が腕の中でゆっくりと弛緩する途中で、不意にカレラが顔を隠した。

「――ごめ…な、さ……」

 何かがヴィンセントの掌に漏れ出ていくのが判るのに止められない。カレラは、その恥ずかしさと申し訳ない気持ちとに胸を詰まらせた。

「…泣かなくていい」

 顔を隠した指の間から聞こえた声に、僅かに指をずらしてカレラが目を上げると、赤い虹彩が鮮やかに滲む濃紺の瞳があった。

 甘い口付けを期待したカレラは、しかし続くヴィンセントの行動に目を見開いた。

 力強い手がカレラの細い膝の裏を掴み、下から掬い上げて押し広げるように足を折り畳ませる。

「え…?」

 ヴィンセントの前に大きく足を広げられたと気付く寸前、白濁した幼い欲望を乗せたままの掌がそれを足の奥へと塗り付けた。

 びくっと腰が浮き、反射的に上へとずり上がろうとするが、ヴィンセントの腕が片膝を胸の脇に縫い止めてそれを許さない。

 ぬるぬるとした指と掌が足の奥を揉むように深く差し込まれ、何かを探るように行き来したかと思うと、つぷっとした窪みに指があてがわれる。そして唐突に中へと侵入してきた。

「あっ、待って、ヴィンセント、まっ――」

 探り当てた狭い場所を、長い指が一本、確かめるように進む。そこが何処かと考えただけでカレラは目眩がした。だがヴィンセントの指は容赦なく、狭いそこを行っては返して道筋を付けていく。

「…うっ、」

 痛くはないものの、あり得ない所を触られる違和感と濡れた摩擦が気持ち悪くて、カレラはヴィンセントの肩と胸に手を当てて腰を動かした。実際は揺らした程度のものだったが、入口を撫でていた指はあっさりと抜け、カレラはほっと息を吐いた。しかし次の瞬間、指は今度は倍の質量になって狭い道筋を押し入ってきた。

「――く…んっ」

 足を押し広げられたまま、カレラは身体をのけ反らせた。

 元より何かを受け入れるようには出来ていない場所は簡単には馴染まず、ヴィンセントの指を硬く拒む。探り探り押し広げようとする指は、浅く出し入れを繰り返し、濡れた音を発てた。

 他に音のない部屋で、その音だけが耳に響く。

 濡れた音がこんなにもいやらしいと知ったカレラは、聞くのも恥ずかしくて頭を振りながら、零れそうになる声を噛み殺した。

 それでも「いや」とは決して言わない。

 恥ずかしくて、後ろめたくて、どうしようもなく心がざわざわと騒ぐけれど、嫌な訳ではなかった。むしろ、ヴィンセントに触れて欲しい。

 頬に唇に、肩に胸に肌に触れて、身体も心も全て差し出してしまいたい。

 そして、ヴィンセントの全てに触れてみたい。

 ヴィンセントが、欲しい。

「――つらいか」

 唇を噛み締めたカレラの頬に張り付いた髪をヴィンセントが払う。

「ヴィンセント…」

 そうやって気遣ってくれるヴィンセントの優しさに、胸の奥がどうしようもなく震えた。身体の底から何かが後から後から溢れて、胸に込み上げるものに突き動かされるまま、カレラは小さな声を搾り出した。

「……すき……」

 そう言葉にした途端、愛しさが形になって瞳から零れ落ちた。

 血の気のない青白い頬をそっと包み、長い前髪の奥の瞳を覗き込んで囁く。

「好き…――好き、」

 ただ伝えたくて、繰り返し囁いては涙を零した。

「わたしのすべてをあげる……」

「…!」

 ヴィンセントは一気に血が沸騰したような衝動を必死に抑え込んだ。唇を噛み締め、両手をきつく握り込んで力の限り衝動に立ち向かう。

 喰らい付きたい。

 傷付けたくない。

 相反する激情がヴィンセントの中を駆け巡り、身体を震わせて本能を抑え込むが、そこまでだった。

 次の瞬間、見開いた眼は真紅の欲望に染まっていた。

 

   

 

 

この続きは、2010年1月25日発売の
その罪の行方 -原罪-
でお読み頂けます。どうぞお楽しみに!

 

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