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act6

  6

「何だ、ぴんぴんしてるじゃないか」
 ネイは戸口まで出迎えた了を見るなり、呆けたように言った。
「してたら悪いのかよ」
 了が憎まれ口を叩くと、ネイは少し安心したのか、ふっと笑った。瑪瑙の肩にすがって懲罰房から出てきてから、五日が経っていた。ネイの後ろには能面のような顔をした近衛兵がついている。
「ああそうだ。宿舎から一歩も出られないなんて、てっきり死にかけているのかと思ったんだぞ。今朝、うちの工房にこの兵士さんがやって来て、息子さんが身体を壊しているようだから診てやって欲しいと言われて飛んできてみれば、これだ」
 ネイは大げさにため息をついた。近衛兵は黙ってネイの大きな鞄を抱えている。
「すぐに城の前まで来たのに、ボディチェックや所持品の検分があってこんな時間になってしまった。もう一時じゃないか……まったく、余計な手続きばかりで効率が悪い。無事だからよかったものの、一刻を争うような事態だったらどうするつもりなんだろうな」
「俺も、初めてここに来たときは散々チェックを受けたよ」
「なるべく私語は慎み、早急に処置をなさるようお願いします」
 鞄を抱えている近衛兵が平坦な口調で割って入った。
 どうして今なってネイが連れてこられたのだろう。まさかネイまで囚われの身になるのではという不安がよぎるが、そうではないようだ。瑪瑙が再三、了のために医者を呼んで欲しいと要望を出してくれていたのが、昨日か今日になってようやく上に聞き届けられたらしい。
 とはいえ、王室づきの医師を遣わせるわけにはいかない。王室づきの医師が宿舎に閉じこめている兵士を診にいったとなれば、遠からずフレデリカの耳に入ってしまうだろう。
 了はフレデリカの〈持ち物〉だということだから、勝手に傷をつけたと分かれば姫の逆鱗に触れる可能性がある。そんな了に後先考えず鞭をふるった野蛮な実戦部隊に、上層部の一部は頭を抱えた。
 瑪瑙の訴えなど無視してしまっても問題ないが、了の傷がいつまでも癒えないことにはフレデリカの護衛にも支障をきたす。そうかといって一般の医師を呼ぶわけにはいかない。
 幸い了の養父は技師である。それならば――と、ネイに白羽の矢が立ったのだろう。
 正規ルートで義手、義足などを扱う技師には医師免許が必要である。夜の国ではそう定められている。『人間の面倒をみるより機械整備をしている方が性に合う』せいで、ほとんど工房の中にこもっているが、ネイは優秀な医者だ。
 了が赤子の頃、まだこの国が荒んでいた頃は、緊急救命医師としてたくさんの命を死の淵から引っ張りあげたそうだ。彼らの多くはその後、失くした手足を再び与えられ、ちょくちょく工房に顔を出している。
 了はネイに中に入るよう促す。ネイは宿舎の中へ入ると周囲を見回し、首を傾げた。
「立派な宿舎に住んでいるんだなあ。他には誰もいないのか? まさかこの建物を、お前一人で使っているわけじゃないだろう?」
「ルームメイトがいるよ。ほら、珍しいからってあんまりじろじろ見るなよ。俺の部屋はこっち」
「ルームメイト?」
「ああ。さっき呼び出されて、今はいないけど」
 つい先ほど、瑪瑙のもとへ位の高そうな軍人が来て、『取引の件で話がしたい』と言って宿舎を出て行ったところだ。
「兵士仲間か? まあいい、それにしてもお前が王宮の宿舎で暮らしているなんてなあ……。リビングだけでうちの工房より広いんじゃないか? こんな、娯楽のひとつもない場所では寂しかっただろう」
「寂しいなんて、そんな。子供じゃないんだから」
 了は肩をすくめて苦笑した。ネイを寝室に案内する。
「いつまでくっついてくるんだ?」
 ネイは嫌そうに眉間に皺を寄せて近衛兵を睨むが、相手は肯定も否定もせず、かといって遠慮をするような素振りもなかった。
「ずっとこの調子だ。気が滅入るだろう?」
 ネイが聞こえよがしにぼやいてみせても、近衛兵の能面のような顔はぴくりとも動かない。感情の一切を、地の果てに置き忘れてきたかのようだ。
「私語は慎み、早急に処置をなさるようお願いします」
 その台詞も、先ほど口にしたものと同じものだ。ロボットかアンドロイドのようで不気味だった。しかし、与えられた命令を忠実にこなす〈兵士〉とは、本来このような姿であるべきかもしれない。
 ネイは近衛兵からバッグを引ったくり、中を改めた。了はいつものようにベッドに腰かけ、シャツの左袖のボタンを外して肘の上までまくる。近衛兵にさり気なく背の高い椅子をすすめてみたが、彼は首を横に振って寛ぐことを拒否した。
「えらく上物の服を着ているな。このシャツは、麻の天然物じゃないか?」
 ネイはドアの入り口を塞ぐように立っている近衛兵を一瞥し、了の衣服に手を触れて、その触り心地のよさに感嘆のため息をついた。
「へえ、そうなんだ。着替えは召使いが毎日持ってくるのを着てるだけだから、気にしたこともなかった」
「召使いだって? やれやれ、貴族にでもなったみたいだな」
 ネイは皮肉げに片眉を吊り上げる。赤いアームカバーのベルトを順番に開いてゆき、生身の腕と義手の接合部分を点検すると低く唸った。
「コンディションが悪い。教えたとおりに毎日調整していなかっただろう?」
「色々あったんだ」
 了の声に苦いものが滲んだ。
「ふん……。何だ、これは?」
 ネイは了のシャツをむしり取ると、こめかみに青い血管を浮き立たせた。了の身体は包帯で不恰好に巻かれている。瑪瑙が傷の手当てをしてくれた時、苦労しながら片腕で巻いてくれたものだ。
「なんでもない。包帯に触らないでくれ。ちゃんと手当てしてもらったから、平気だ」
「どこがだ、包帯の巻き方一つとっても滅茶苦茶じゃないか。強制的に黙らせて欲しくなければ、おとなしく後ろを向け」
「嫌だ、って! いいんだよ、これは!」
「まったく、いくら新米の看護師でも、ここまで手際が悪い者はそういないだろう。どうしたんだ、そんな子供っぽい我が儘を言うなんてお前らしくもない」
「別に……」
 了は気まずくなって視線を落とす。自分でも、たかが包帯ごときにこだわって、ネイの手を払いのけてしまったことを不可解に思った。
「あまり時間もないので、早急に済ませて下さい」
 近衛兵が単調に繰り返す。じれったげに包帯の結び目をいじっていたネイは、戸口をふり返ると大声を出した。
「お前たちが余計な手間ばかりかけさせるせいだろう! 了、じっとしていろ」
「ちょっと、待っ……」
 制止する間はなかった。ネイは包帯の結び目を一気に鋏で切り落とした。解けた包帯がぱらぱらと床に落ち、身体を覆っていたガーゼが取り払われる。
「何だこのみみず腫れは……おい、誰に打たれた?」
 肩から腰にかかる傷を見て、ネイは険しい声をあげた。
「貴様らがやったのか? どうしてこんな酷いことを!」
「ネイ、いいんだ!」
 近衛兵に掴みかからんとする養父の肩を、寸手のところで抑える。ネイは了の手の力強さに一瞬戸惑って目を瞬いたが、すぐに我に返ると小さく舌打ちをした。
「俺なら平気だから」
 これでも懲罰房から出てきた日に比べれば痛みも腫れも引いている。化膿もしなかったし、この程度の怪我など了は大したものではないと思っていたが、他人の目にはひどいものに映るようだ。
「ふん」
 ネイは不快そうに顔をしかめると、往診バッグの中から消毒液を取り出してコットンに浸す。ひび割れた傷口に消毒液を押し当てられると沁みて痛くて、了はつい呻き声をもらした。ネイは手際よく薬を塗りつけると、軽く息をついた。
「これでよし。もう包帯は必要ないぞ」
 ネイは一段声のトーンを落とすと、そっと了に訊ねる。
「お前、いったい何をやらかした?」
「任務で、ちょっと」
 いくら声をひそめても、あの近衛兵の耳は、自分たちの会話を聞き逃してはくれなさそうだ。了はしきりに戸口へと視線を飛ばしてネイを牽制する。
「背に鞭を打たれ、外出も禁じられているのにか? いくら設備の良い宿舎をあてがわれているといったって、これでは……」
 納得出来ないと、ネイは声に苛立ちを強く滲ませる。了は頑なに首を横に振った。
「――察してくれ」
 ネイが心配してくれているのは分かっている。だが、答えられるはずがなかった。
 見張りについている近衛兵がどこまで事情を知らされているのかは分からない。下手に口を滑らせたらネイの身にも類が及んでしまうだろう。同じ理由で、瑪瑙にも己の事情について全てを語ることはなかった。
 どうしてこうなったのか、どうして自分がこんなところにいるのか――ことの成り行きをきちんと説明するには、国王が逝去している件について触れぬわけにはいかない。たとえそこを曖昧にしようとしても、口下手な自分のことだから深く追求されればすぐにボロが出るだろう。
 二人に沈黙が降りる。
 ネイはしばらく探るように了を窺っていたが、やがて諦めたのか微苦笑混じりに「ふん、一丁前な口をきくようになったもんだ」と言って了の義手に元通りアームカバーを嵌めた。
「やはり、工房でないとしっかりしたメンテナンスが出来ないな。いつ頃、謹慎が解かれるんだ?」
「さあ、まだ分からない」
「処置を終えられましたのなら、速やかに退出願います」
 どこまでも無表情に近衛兵が告げる。ネイは洗面所で丹念に手を洗い、近衛兵に鞄を持たせると了に一つ頷き、宿舎のドアをくぐろうとした。
「おっと」
 ドアの入り口でネイの肩先が黄金の長い髪に彩られた肩に衝突した。瑪瑙は、たたらを踏んだネイの足腰をスマートに支え、気づかうように言った。
「失礼。お怪我はありませんか?」
「いや、こっちこそちゃんと前を見ていなかった。すまなかったな。おや? お前さん腕が一本ないじゃないか。それじゃあ不便だろうに」
 ネイは前向きに支えられた格好のまま、目ざとく瑪瑙の左腕の裾が宙に泳いでいるのを見つけて言う。商魂たくましいことだ、と了は内心苦笑しながらネイを助け起こした。
「こんなところに来てまで営業するなよ」
「うちの義手はただくっついてるだけじゃなくてね、リハビリと訓練を積んで、それからちょっとコツさえ掴めば、自由に動かせる、ように……」
 体勢を立て直し、瑪瑙の顔を改めて目にすると、ネイの目が徐々に見開かれていった。
「もうこの状態に慣れてしまっているので、必要ないんですよ」
 瑪瑙は愛想よくネイに言う。そして、ネイの風体を眺めてから、どこか察したように了に問いかけた。
「この人が噂のお養父とうさん?」
「そう。ネイ、このひとがルームメイトの、瑪瑙」
「ルームメイト」
 ネイの様子がおかしい。いつもの斜に構えた口調はどこへ消えたものやら、言葉そのものすら遠いところへ忘れてしまったように呆然と立ちすくんでいる。
「ネイ?」
「…………」
 もう一度名を呼びかけてみるが、ネイは返事をしなかった。ネイの双眸は瑪瑙の顔を凝視したまま固まっている。
 まるで瑪瑙の美しさ、あまりの現実味のなさに魂を抜かれてしまったかのようだ。初めて瑪瑙に出会った時の自分も、もしかしたらこんな間抜けな顔をしていたのかもしれない。
 了は、不思議そうにネイを眺めている瑪瑙に向かって軽く拝んでみせた。後で身内の無作法を詫びるからと。瑪瑙は軽く肩を揺すり、気にするなというように片頬だけで微笑み、宿舎の中へ消えていった。
「行こう」
 了はネイと近衛兵を促すと、そそくさと宿舎を後にした。緑の眩しい湖畔の小道をネイと二人並んで歩く。近衛兵は用心深そうにきっちり一メートル半ほどの間を取って後ろについていた。
 ネイの顔色はどんどん蒼ざめていく。具合でも悪いのだろうか? 了はネイの手を掴もうとして、僅かに逡巡した。
 養父の手を握るなんていつ以来だろう。いや、そもそもこんなふうに一緒に陽の光の下を歩いたことが、これまでどのくらいあったのだろう。ネイと共に過ごしてきた時間といえば、オレンジ色のライトが点ったあの工房ばかりのような気がする。
(どうして俺は、小さな頃のことをほとんど覚えていないんだろう)
 思い出の底をさらおうとしても、了の虫食いだらけの〈記憶〉という容れ物は、いくら懸命に掬おうとしても方々に虚ろな穴が開いていて、欲しいぬくもりを掴むことは出来なかった。
「ネイ」
 了は思いきって声をかけ、分厚い手を握ってみる。
「え?」
 ネイの手のひらには大量の汗が滲んでいた。つい先ほど洗ったばかりなのに――了はぬるりと湿った感触に驚き、今や蒼白となって強張るネイの横顔を眺める。
「……あのルームメイトの名は、何といったかな」
 ぽつりと、ネイの口から言葉が発せられる。後ろでずっと付き従っている近衛兵と同じくらい、平坦で色のない声だった。
「瑪瑙だよ。そういえば、ファミリーネームを知らないや。彼がどうかしたの?」
「瑪瑙……。瑪瑙というのか、そうか……」
 了が見送りを許されているのは城の裏口までだった。「ここから先は責任を持ってこちらでお送りします」という近衛兵に頭を下げる。了は謹慎処分が解けたらなるべく早く工房へ行くと約束し、門の内側からネイを見送ることにした。
 近衛兵が裏門を開けるため、赤い軍服のポケットから様々な鍵のついた輪を取り出し、錠に挿す。錠が外れる重い音が響いた時、ネイは一度だけふり返った。近衛兵の動きを気にしながら、了の耳に小さな耳打ちをした。
「あの男には気をつけろ」
「えっ……?」
 あの男?
 あの男とは、瑪瑙のことか? どうして瑪瑙に気をつけなくてはならないのだろう。ネイは瑪瑙のことを何か知っているのか? いったい何に対して気をつけろと言うのだ?
「それでは、あちらに蒸気自動車の手配が整っております。工房まで帰られますか、それともどこか別の場所へ着けましょうか?」
「解体屋で細かいパーツを見繕いたいから、三番通りで下ろしてくれ。後は自分でなんとかするよ」
 しかし、了が疑問を投げかける前に、ネイは近衛兵に連れられて門の外へと出て行ってしまった。了は仕方なく道を引き返し、瑪瑙の待つ宿舎へと戻ることにした。


「怪我の具合はどうだ? 親父さんは無事に帰ったかい?」
 宿舎に帰ると、瑪瑙はリビングのソファーで本を読んでいた。了はすぐ隣に腰かけて、何を読んでいるのかのぞきこむ。本の中は古代文字で隙間なく埋められていて、とても自分などが読めるようなシロモノではない。
「大丈夫だよ。このくらい、そんなに大騒ぎするほどのものじゃない」
「またすぐに強がる」
 瑪瑙はからかうように言って、了の腰を抱き寄せた。前は触れられるたびにいちいち驚いて身を竦ませてしまったものだけれど、ここ数日のうちに、すっかり了は瑪瑙の指や口唇の感触に慣れていた。他人に触れられることは苦手なはずなのに、瑪瑙に触れられるのは少しも嫌ではなく、むしろ嬉しかった。
「強がってるんじゃない、本当に平気だから……」
 瑪瑙は小さく笑って了の言葉をキスで封じこめてしまう。間近で見つめられて、了の心臓が速くなった。どうしてネイは彼に気をつけろ、などと物騒なことを言うのだろう。
 あの日――。
 懲罰房へ投げこまれた自分を助けに来てくれた瑪瑙。自分が人殺しだと告げても、何でもないように受け入れてくれた瑪瑙。そして今、自分なんかの身体を心配してくれる瑪瑙。
 瑪瑙のことを想うと、心臓がとくとくと音をたてる。視線を合わせると余計に、甘酸っぱいような、落ち着かないような、変な気分になってしまう。
 こんな気持ちは今まで誰にも抱いたことがない。
 このあやふやな想いの正体が分からずに、了の心は時々ひどく不安定になった。だが、低い声で名前を呼ばれ、こうして頬に幾度もキスをされていると、不安な気持ちごと啄ばまれていくようだった。瑪瑙は了のシャツをまくると、安心したように言う。
「包帯は取れたんだな。もう苦しくないだろう、よかった」
「別に俺は、あのままでよかったんだけど」
 了が言い返すと、「どうして?」と瑪瑙は目を丸くした。
「あんな不恰好な巻き方じゃ寝にくいだろうし、いいことなんか一つもないだろう」
「……そうだね。薬も塗ってもらったし……。もう、すぐに良くなるよ。だから」
 了は自分から瑪瑙の口唇に吸いついた。舌を絡め取ろうとするが、するりと逃げられてしまう。
「駄目だ、こんなことをしていたら、いつまで経っても快復しない」
「大丈夫だって、言ってるじゃないか。そっちから教えてきたくせに」
 つれない相手を軽く睨むと、仕方ないなと苦笑され、ソファーの上に倒された。
「背中は痛くないか?」
「痛くない」
 そんなもの、少しも気にならない。乳首を軽く摘まれると、了は甘い吐息を漏らした。
「んっ」
 背中の傷だけでなく、頭の中もネイに診てもらった方がよかったかもしれない。瑪瑙の手で少し触れられただけで簡単に身体が反応し、熱を持ってしまう。毎日毎日そのことばかり考えていて、気がおかしくなりそうだ。
「もう硬くしているのか? まだここしか弄っていないのに」
 了のボトムの膨らみを見て、瑪瑙は愉快そうに喉を鳴らす。乳首をせわしなくひっかかれるたびに、身体の奥にある欲望の渦がさざめくような気がした。
「あ、あっ」
「そんなに簡単に私にしてもらえると思うなよ」
 瑪瑙は意地悪く青い目を細めると、一旦置いていた本を手に持ち、擦り切れた背表紙の角を了の身体に押し当てた。ひんやりとした背表紙の尖りが鎖骨をなぞる。
「ん、嫌だ、こんな……」
 角が乳首を執拗に押し潰す。こんなものでなく、瑪瑙の指で直に触れられたいのに。
 了はじれったい思いでシャツを脱ぎ捨てると、瑪瑙の右腕を強く引っ張った。体勢を崩し、瑪瑙がソファーに倒れこむ。金色の髪が舞い、柑橘とムスクが混じったような香りがした。瑪瑙の香りだ。瑪瑙の香りを嗅ぐと、了の皮膚は粟立って背筋が震えてしまう。
「まったく……。覚え始めというやつは、猿みたいにサカるものだな」
 瑪瑙は了のボトムの前をくつろげさせ、熱くなった昂ぶりを鷲掴みにして、揉むようにしごいた。その力加減が絶妙で、了の先端からはたちまち透明な蜜が滲んだ。
「あ、あぁ、駄目……」
 瑪瑙の指は器用に蜜をすくい、了のカリに塗りつけ、刺激する。反射的に腰を引いて逃げようとすると、ぐっと腰をつかまれ、後ろから抱きすくめられた。了の荒い息に興奮したのか、瑪瑙のものが尻に当たっている。
 瑪瑙も覚えはじめの頃は、自分のように毎日快楽を求めて喘いでいたのだろうか。その相手が自分でないことが無性に悔しかった。了は身体を捩って瑪瑙のベルトに手をかけようとした。
「してやらないって言っただろう。がっつくな、ガキ」
「ひっ」
 瑪瑙は冷ややかに笑い、了の双珠に爪を立てて握り潰した。引き攣るような痛みが走り、たまらず了は悲鳴を口の中へ飲みこむ。
「駄目とか、嫌だとか言っているうちは、もうしない。欲しいとか、ちょうだいなんて甘ったるいおねだりにも応えてやらない。本当に欲しいんなら、私をもっと煽ってその気にさせて、お願いしますと言えるようになるまでよがってみろ」
「……そんな、こと……」
 了が硬く目を閉じると、衣擦れの音が近くでした。おそるおそる薄目を開けてみると、瑪瑙は了の前に一糸纏わぬ裸体を曝け出した。了は驚いて目を瞬く。初めて出会った日から今まで、瑪瑙が全裸になることはなかった。下は脱いでも、絶対に上着を脱ぐことはなかったから。
「あっ」
 無駄な贅肉も、無駄な筋肉もついていない、完成された大人の身体。手を伸ばして触れてみると、肌の感じが、硬く青く張り詰めた自分のものとは全然違っている。真っ白な肌の下にある肉は甘く、蕩けてしまいそうだ。
 煽ってみせろと言って嫣然と笑む男。こんな強烈な色気の前に、経験不足の自分が太刀打ち出来るわけがない。相手を興奮させるやり方なんてものも、了には分からなかった。
「瑪瑙……っ、瑪瑙っ」
 だから、純粋に本能が求めるままに行動する。向かい合わせで座った状態のまま、夢中で瑪瑙の腰にすがりつき、雄同士を擦りつける。了の先走りが瑪瑙に纏わりついて、いやらしく糸を引いた。
「お願い……中に、挿入れ……」
「聞こえないな、そんな小さな声では」
「あぁっ!」
 きつく雄芯の根元を?まれ、ひくつく欲望に指を這わされて狂いそうになる。その時、宿舎のドアが高くノックされた。
「お食事を運んで参りました。重いのでここを開けていただきたいのですが」
「――っ!?」
 召使いの声だ。駄目だ、今こんなところに入って来られたら――!
 了が顔色を失くしていると、双丘を割り開いて、ゆっくり瑪瑙のものが体内に侵入ってきた。
「な……っ、あっ、は、っん」
 了の奥に快楽の震えが走り、早く早くと瑪瑙の昂ぶりが届くのを待ちわびている。きっと瑪瑙はそんな余裕のなさを分かっていて嘲笑っているのだろう。優しく、優しく、了の肉壁を浅く抉っては入り口へ戻ることを繰り返す。
「あのう、中にいらっしゃいますよね? お食事を運んで参りました。おかしいな、いつもすぐに開けて下さるのになぁ……」
 すぐそこに人がいる。了は血の滲むほど口唇を噛んで声を堪えた。瑪瑙の動きに合わせて、中がどろどろに溶けている。射精感が這い上がってくるのが分かった。
「い、く……、もう……」
 限界だ――了が深く息を吸いこみ、身体を痙攣させた時、瑪瑙は外にいる召使いに声をかけた。
「すみません、ちょっと今、手が放せないのでそこへ置いていって下さい」
「あ、はい。どうぞ、冷めないうちに召し上がってくださいませ」
 召使いの足音が去っていく。了が吐き出した精は瑪瑙の顔までを汚していた。瑪瑙は顔から了の白濁を掬い取ると、わざと卑猥な音をたてて舐めてみせる。たったそれだけで了の雄は熱を持ち直し、瑪瑙を咥えこんだままの窄まりがうごめいた。しかし、瑪瑙はあっさりと了の体内からそれを抜いてしまう。
「やだっ、やだっ、止めたら、嫌だ……」
「『嫌だ』じゃ、あげない。そう言ったはずだが?」
 つぷん、と瑪瑙の中指が蕾の中に呑みこまれる。さんざん最奥おくを抉られたばかりだったから、指くらいでは足りなくて、了ははしたない嬌声をあげた。
「指じゃ、ない……お願い、しますっ、中に、中に挿入れて下さ、っああぁ!」
「……! 分かった」
 瑪瑙の肉楔が深々と突き刺さる。荒い吐息が重なり、瑪瑙のものが膨れ上がるのを、了は身体の奥で感じた。しっとりと汗ばんだ肌と肌が吸いつき、離れては粘った音を響かせる。やがて瑪瑙の塊が爆ぜると、了は先ほどよりなお甘く濃い快楽に打ち震えながら絶叫した。


 ■■■

 眠りにおちた了の黒い髪を撫で、瑪瑙は深いため息をついた。
 またひどく抱いてしまった。ひとつになれば毒を注いでしまうと分かっているのに、止められなかった。彼は自殺志願者ではないし、悪人でもない。
 むしろ、驚くほどに純粋で真っ直ぐな青年だ。反乱分子の仲間だという話だったが、先日のつまらない自爆テロを起こしたやつらとは繋がりがないようだし、人を殺したことに対してどうしようもない罪悪感を抱いている、普通の人間だ。
 自分とは違うのだ。人殺しのために生まれ、育てられ、捨てられてからもそれを〈仕事〉として当たり前にこなしてきた自分とは、違うのだ――。
 わざと嫌われるように振舞おうと思った。しかし、そんな決意とは裏腹に、了の真っ直ぐな瞳に見つめられるたび、自制心を失くして全てを喰らいつくしてしまいたくなるのだ。今なら少し、ヤンの気持ちが分かるように感じる。
 瑪瑙は裸体にボルドーのガウンを羽織って、リビングの窓を細く開けた。
 蒸れた情交のにおいが初夏の夜の風に流されてゆく。
 了が素直に快楽に染まっていく姿を見ていると、過去の自分の姿が思い浮かんでしまう。あの時の自分もこんなふうに喘いで、ぐずぐずに尻穴を蕩かせて、突き上げられるのを待っていた。
「……嫌な月だな……」
 窓の外には、あの逃亡を計った夜とそっくりな丸い月が浮かんでいて、瑪瑙の胸に爪をたてた。クルトの嗤い声が十四年経った今でも胸に貼りついていて、心がざわついた。
 昼間に瑪瑙のもとへ訪れたクルトの側近は、標的の始末はいつ頃になりそうなのかと聞いてきたが、はっきりと答えられなかった。
 普通、これだけの間隔で毒を流しこんでいれば、そろそろ弱ってきて、死の兆候が身体に現れてきてもおかしくはないのだが、了には全くそういったサインが見えないからだ。二週間ほど待って欲しいと申し出ると、もっと早く出来ないのかと恨みがましく言われて辟易した。
 瑪瑙は月を眺めるのをやめた。
 自分の寝室から薄い毛布を持ってきて、静かに眠っている了にかけてやる。
「こいつを殺すのは、嫌だな……」
 了の赤いアームカバーを撫でていると、ふと意外な言葉が口をついて、瑪瑙は驚いて口元を覆った。
 何だそれは? 弱気になっている――疲れているせいだろうか。こんな夜はさっさとやり過ごしてしまおう。目を閉じると遠い場所からフクロウの鳴き声が聞こえた。


☆第9回は5月27日(木)0時更新予定です。どうぞお楽しみに♪


by 玉置真珠 ¦ 00:00, Thursday, May 20, 2010 ¦ 固定リンク ¦ 携帯

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