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act5

  5 ―現在―

「どうだ? 七も出る依頼なんてそうそうないぜ、引き受けてくれるよなぁ、瑪瑙?」
 ジャンは煙をうまそうに燻らせながら目を細めた。
 裏通りの一角。
 普段から大勢のごろつきや娼婦たちがたむろしている安酒場。賭けポーカーが平然と行われたり、酔っ払い同士が些細なことから罵りあい、果ては殴りあうなど、派手な喧嘩がおっ始まるのも珍しくない、熱気と騒乱に満ちた悪所である。
 こんな所で堂々と誰を殺すだの、報酬はいくらだのと話すのはまずいのではないか……と、ジャンと組んだ当初は心配になったものだが、全て杞憂にすぎなかった。他人が何をしていようが詮索してくる物好きはそういないし、ここいら一帯の顔役として認められているジャンに、わざわざ絡んでくる命知らずはもっといない。
「七……、ね」
 先ほどからジャンと瑪瑙が口にしている数字は報酬の額だ。ちなみに、この間遂行した一家心中の生き残りは二。確かに、破格の報酬ではある。
「……」
 瑪瑙は標的の写真を眺め、首をかしげた。粗い画像にはまだ少年といっていいくらいの若者のバストアップが写っている。
 黒髪に黒と赤の瞳――この、赤い方は義眼だろうか? 今どき義眼を持つ者などそこいらじゅうに転がっているが、赤はちょっと珍しい。負けん気の強そうな顔立ちだが、まっすぐな目をしている。どう見積もってもそれほど高値がつく悪党とは思えなかった。
「こんな子供につくには高すぎる額だ。どういう裏がある?」
「マシな仕事を持ってこいって言ったのはあんただぜ。裏なんかねぇよ」
「ふん」
 瑪瑙はカウンターに腰を下ろし、バーテンダーに合成酒を注文した。ちらっと見ただけで胃もたれをおこしそうなショッキングピンクの液体が運ばれてくる。
 ジャンは上等なラムをちびりちびりとやりながら、「よくそんなけったクソ悪いもんを頼むもんだ」とからかうが、瑪瑙はアルコール類をやらない。バーに来た手前、格好だけ頼んでみせたのだと知っているので、すぐに真顔に戻った。
「こいつが何をしでかしたのか? なんで七なんて額をつけられてんのか? それが気になるってのか? ハン、そんなもの、いちいち調べてたらきりがねぇよ」
 暗殺者として大事なのは、標的がどう生きてきたかを知ることではなく、どう始末するかだ。ジャンに言われるまでもない。瑪瑙は鬱陶しげに金色の長い髪をかきあげる。遠くでチラチラと瑪瑙を眺めている下衆な男が軽く口笛を吹いた。
「……ま、そうはいってもな。あんたに仕事を回す時だけは、仕方ねえ。少しばかりの調査はしてあるよ」
 あんただけは特別だからな、と、ジャンは猫なで声で媚びてみせる。瑪瑙は涼しい顔でそんな口笛や言葉を聞き流し、黒髪の青年の写真をじっと見つめた。
「調査の結果は?」
「ああ。ヤマトの友達ダチにあたってみた。最近、また新しい組織チームがゴタついてるみたいでよ、キナくせえな。一つだけ分かったのは、こいつがどこのチームにも入っていないってこと。真っ当に働いてる」
「ますます高値がつく理由が分からんな。やっぱり裏があるんだろう?」
 ヤマトの末裔たちが寄り集まって形成するチームはいくつも存在し、日々融合と分裂を繰り返している。スリや万引きなどの軽犯罪から、恐喝や売春など何でもやる。ゆえに、この国の警官はヤマト人を見ると反射的に手錠を振り回す――というのも、あながち冗談ではない。
 チームが組織として育ってゆくにつれ、娼館経営や違法薬物の売買、密輸品などの取り扱いにも携わっていく。しかし、元締めは夜の国以外にも名を轟かす、とあるマフィアだ。
 結局は消費されるだけのもの――。
 小さなチームは、大きなチームに。
 大きなチームは、より巨大な組織に。
 下手を踏めばすぐに消され、代わりを立てられる。いくら新興勢力が沸こうが、根っこは一つのマフィア。その手のひらの中で、誰も彼もが使い捨てられるのを待っているにすぎない。
 たかが髪の色が黒いだけで。
 たかが瞳の色が黒いだけで。
 彼らは、理不尽な差別を受け、犯罪に手を染めるしか生きる術をもたなくなる。閉塞しきったクローネの裏側……。
「チームには属していない、ね……。私と似たようなものか。だが私はまともな職になどつけないし、現にお前にいいように利用されるだけの身だ。彼のほうがマシだな」
「よせよ、らしくねぇぞ、隻腕の死天使さまよ」
 ジャンはくいっとラムを呷る。賭けポーカーをしている卓がその時、どっと沸いた。大きな勝負でもしていたのだろうか。
「うるせぇなあ。……チッ、あのイカサマ野郎、またカモを引っ掛けていやがったのか――おい、てめえ!」
 ジャンは大勝したヒゲ面の男をギラリと睨みつける。すると、男はビク、と縮こまってそそくさと大量の紙幣を皮袋に突っこんだ。飲み食いした分の金をテーブルに残すと、しなだれかかっていた娼婦の手を乱暴に払いのけて外へ出て行った。
「あんなモン、カモられる方が悪いんだが、俺の目の前でやられるのはいい気分じゃねぇ。この間、商会のやつらにちっとヤキを入れさせたんだが、まったく懲りねえ野郎だ」
〈フリック商会〉というのがジャンのやっている何でも屋・・・・の名称だ。
 ジャン・フリック――どうせいくつも使い分けている名前の一つだろう。
「ん?」
 瑪瑙の目が写真の一点で止まった。
「気がついたみたいだな。これだろ?」
 ジャンはやっとそこに食いついたかとばかりにニタリと笑うと、写真の一点を指さした。
「……ドッグタグ……? じゃあ、真っ当な仕事というのは、まさか……」
「そう! 兵士だよ。ヤマト人が兵士だなんてとんだお笑いぐさだろ? 時代ってやつなのかね。噂によるとかなり腕っぷしがたつらしいぜ。ただの・・・暗殺者じゃ返り討ちにあっておしまいだってんで、こっちへお鉢が回ってきた――というわけだ」
「ふん、時代……か」
 瑪瑙は気のなさそうに呟く。ジャンはマスターに新しい酒を持って来るよう声を張り上げた。
「分かった、とりあえず依頼人から話を聞いてみよう。段取りは?」
「夜明け前に、第三居住ブロックの外れ。カメリア通りの旧地下都市入り口で待つ、とさ」
「夜明け前? これからか、ずいぶん急ぎだな。お前はどうする、来るのか?」
「いいや――」
 そこへ、先ほどイカサマ師に纏わりついていた女がつかつかと近寄ってきた。
「ジャンー、ひどいじゃない。あの猿野郎はあたしの獲物だったのにぃ」
「悪い悪い、今夜もいい女だな、雪」
 ジャンは好色そうに笑って、ほとんど下着のような露出過多な衣裳を身につけている女を抱き寄せた。女は嬉しそうにジャンにすりつく。
「俺は同席しない。関わる人数はできるだけ少なくして欲しいとさ。事後処理も向こうがやるそうだから、今回俺の出番は何にもない」
 言いながら、女のくびれたウエストから適度にむっちりと脂がのった太ももへと指を滑らせる。
「あん、ジャンったらこんな所で……。あんたならもっとちゃんとした所でたっぷりサービスしてあげるから、ね?」
 女が甘い声で笑う。
「ほら、お前の大好きな隻腕の死天使が見てるぞ」
「やだ、本物なのぉ?」
「いい加減にしろ。まだ商談の途中だろう、ジャン」
 瑪瑙は忌々しいものを目に映したくもないとばかりに、ふいとそっぽを向く。
「それに、まだ受けたわけじゃない。依頼人から話を聞くだけだ」
「つれないこと言うなよ。そうだ、夜明けまでまだ時間があるが、どうする?」
 ジャンは言外に、一緒に女遊びを楽しんでいくか? と匂わせている。
 何を馬鹿な! 自分の体液が触れれば相手の命があやういのは知っているだろうに――。
 スリルを楽しみたいだけなら完全にお門違いだし、そのへんの娼館へ行けば女でも男でも……子供でも相手は転がっている。いや、わざわざ娼館になど行かなくとも、ジャンにはあのパートナーの少年がいるではないか。
 では、瑪瑙が女とつながっているところが見たいとでもいうのか? 
 名前を呼び合っていたことから、それなりに馴染んだ相手と見えるのに、殺してしまうのに何の躊躇いもないとは……。
 悪趣味だ。瑪瑙は小さく舌打ちをした。仕事を効率よく斡旋してくれるのは有難いが、そんな愚行に付き合ってやる義理はない。手にしている合成酒に口をつけると、くいっと飲み干す。ピンクの液体がひとすじ、のどに滴り落ちた。
「あんた、酒は飲めないんじゃなかったのか?」
「飲めないんじゃない、効かないだけだ。ここから第三ブロックまでなら、歩いていけば約束の時間より少し早めに着く。やるかやらないかは明日連絡するから、せいぜい昼までには事務所で待っていろ」
 空になったグラスをドンとテーブルに叩きつけ、立ち上がる。一瞬、ジャンに抱かれている女と視線が交わったような気がしたが、知ったことではない。
「おい、待てよ!」
 背後からジャンが呼びかけてきたが、瑪瑙がそれに振り返ることはない。
 この仕事が終わったら、もうあの男とは縁を切ってしまおう。そう決めてしまうと、このところずっと燻っていた心のもやが晴れた。犯罪者わけありゆえに国外へは出られないが、これまでのように夜の国の中、転々と街から街へ流れていこう。そういえば、クローネに戻ってもうすぐ一年――少し、長く居すぎた。
 黒髪、黒と赤の瞳。
 あいつ・・・は何故、自ら首輪につながれる道を選んだのだろう?
「……国の下僕いぬ、か……」
 瑪瑙は黒いジャケットの内側からコインを取り出し、右手の親指でピンと跳ね上げ、落ちてきたそれをパシ、と握りこんだ。
 ――表。
 コインは『行け』と言っている。夜風に長い髪をさらわれながら、瑪瑙は第三ブロックへと足を向けた。


 コツ、コツ、コツ。
 がらんとした居住区にブーツの足音が響く。第三ブロックは土地の汚染が強いために、居住区といっても家の数は極端にまばらだ。道端に黄金色の林檎が熟していた。街の中心にはたくさんあった街灯も、外へいくほど少なくなっていく。
 この時間では暗くて見えにくいが、少し離れたところには小高い丘があって、そこには天使の像が置かれている。
 それにしても、こんなひと気のない場所で待ち合わせとは、酔狂な依頼人だ。自分を卑下するつもりはないが、相手からしたら所詮チンピラに雇われた得体の知れない殺し屋だというのに、一対一で顔を合わせるのが怖くはないのだろうか。
「天使像……」
 瑪瑙はきっと口元を結ぶと過去の追憶をふり払い、居住区の外れを目指した。
 しばらく歩くと、崩壊した石造りのゲートが見えてきた。
 地下都市――古代帝国ヴァルハラの入り口だ。
 六百年ほど昔、この地で栄華を極めたと伝えられる幻の都。文明の極み、超帝国と呼ばれた叡智の全ては地中深くに眠るという伝承がある。しかし、現在の化学力では汚染されきった土の中から太古の遺産を発掘することは不可能といわれている。
 コツ、コツ……コツン。
 瑪瑙は古代文字の書かれたゲート前で足を止めた。人の気配を感じたせいだ。
「フリック商会の者か?」
「そうだ」
「よし、指定通り一人で来たな。時間にも正確……まずは及第点だ」
(こいつ……?)
 高圧的で、聞き取りやすい発音の声。す……と、暗がりから暗褐色のフードがついたマントを羽織った男が現れ、瑪瑙は苦笑した。
「軍人が、暗殺の依頼とはおかしなものですね」
「ほう、ひと目で見抜かれるとは思わなかった。優秀じゃないか、フリック商会の」
「――瑪瑙」
「では瑪瑙、お前の力を見込んで改めて依頼をしたい。標的の名は、了・バイルシュミット。我が国の兵士にして反逆の徒。前王を支持する危険思想の持ち主だ」
「前王……。暁の王、ヤン……」
「そう、暁の王派だ。やつらの一部が凶悪なテロリストなのは知っているだろう? ついこの間起こったハーライト駅を爆破した事件の犯人も、暁の王派の残党だった」
「……暁の王派、ね……。それで?」
「この男は現在、訳あって王宮に仕えている。我々では思うように手が出せない。……これ以上は、依頼を受けるか受けないかによって答えよう」
 暁の王派……。
 まさか、まだ、そんなものが残っていたのか――。
 瑪瑙は近衛兵に気づかれぬよう、口元に手をやって考えるふりを装い、その下でくっと口角を吊り上げた。
(せっかくあの時、ヤンを殺してやったのに……まだ仲間に手こずっているのか)
 しかも王宮に仕えている、だと?
 どういう経緯かは知らないが、ヤマト人が王宮勤めとは、うまくやったものだ。失くした左腕がじくじくと痛む。
「分かりました。少し難しそうな依頼ですが、値も悪くないし、ちょうどこの街を出て行こうかと思っていましたから、まとまった金が欲しいところだったのです」
「では」
「お受けしましょう」
「そうか……。よろしく頼む」
「ええ、こちらこそよろしくお願いします、依頼者マスター
 軍人は一瞬、ほっとしたような顔をした。

(馬鹿め……)

 この男は、どうせクルトの側近の使いだろう。
 黒髪の青年などに興味はない。
 殺すかどうかは、実際に会ってこの目で確かめてから決めてもいい。
 瑪瑙の真の標的は、病に倒れ、王宮から一歩も外へ出てこない国王、クルト・エーレンフェルスただ一人――王宮へ潜入出来るとあれば、クルトに接近する機会もきっとあるに違いない。
 私の人生を弄んだあの男――。
 無くした腕。無くした心。無くした想い。
 待っていた。この瞬間のために、生きてきた。
「詳しいことと、城へ潜入するための手順を追って教えていただきたいのですが」
「ここでは難だ、近くに蒸気自動車を停めてあるから、中でゆっくりと説明したい」
 瑪瑙はゆっくりと頷く。
 ほのかに空が明るくなったのでふと見上げると、茜色に染まった東天に高く金星がきらめき、その下で細い月がまどろんでいた。


 □□□

「どうした、さっさとついて来い! ヤマトの末裔ってやつは頭の回転だけではなく、足まで鈍いのか!? 荷物は一個だけか?」
 そんなに煩く怒鳴らなくたってちゃんと聞こえている。だが、相手は自分などよりはるかに身分も地位も年齢も高いし、些細なことで一々反感を買うのはごめんだ。
「これで全部です」
 了は全財産の入ったカーキ色のダッフルバッグをひょいと肩に担ぐ。中にはあまり物が入っていないので、荷物といっても軽いものだ。
 クルト王の側近の部下の言葉に従って城の裏門を抜けると大きな湖が広がっていた。湖のほとりを青い木立が取り囲んでいて、砂利敷きの小道が奥へ伸びている。了は側近の部下がまだ文句を垂れ流しているのを適当に受け流しつつ進んだ。
「まったく、この忙しい時期にとんだ厄介者が紛れこんだものだ……。ほら、あの煉瓦の建物だ」
 側近の部下は面倒くさそうに親指を立て、簡素な平屋を指す。
《国王クルトが逝去していた》
 その事実を知ってしまってから、長い一夜が明けた。
 了は一度、監視つきで住処へ帰って荷物をまとめさせられ、再び王宮へ連行された。
 もうこの頃にはさすがの了もへとへとになっていたため、明け方から昼前くらいに召使い用のベッドを使わせてもらって、浅い眠りを享受した。
 硬いベッドの上でまだまどろんでいた時、側近の使いが来て、有無を言わせず了を城内のあちこちへと連れまわした。国王の側近たちは汚いものを見るような目で了の黒い髪と瞳、義眼に義手などを揶揄し、次々に不満を口にした。
『ヤマトの末裔の一人二人、殺してしまえばいいではないか。何だ、その赤い目におかしな手は。仮にも王宮に置くというならば、もう少しまともな身なりには出来んのか?』
『こやつについている義手は特注品だそうで、神経節まで繋いでいるため取り外しがきかないのです。そう出来たらどれほど楽か知れませんが、姫さまがお許しになりません』
『ただでさえクルト閣下の長き病をいぶかしみ、見舞いと称した偵察を差し向けてくる属国の者どもが多いというのに……あのお姫さまはいったい、何を考えているのだ!』
 さんざん取調べを受けてから、住処を王宮内にある兵士用の宿舎へ移すよう命令されたのは、その日の夕方になってからだった。
 国王の娘、王位第二継承者のフレデリカ・エーレンフェルスの命で死刑はないが、秘密を知ってしまった外部の者をみすみす放置しておくわけにはいかぬ――と、了は殺される代わりに一切の自由を剥奪されることとなったのだ。
「ここだ。さっさとそのずた袋を中へ入れんか!」
 側近の部下にせっつかれながらたどり着いた宿舎は、古びてはいたものの、これまで了が寝起きしていた安いアパートメントとは比べものにならないほど立派なものだった。兵士の宿舎というより、狭いながらも上流家庭のセカンドハウスのような小洒落た雰囲気が漂っている。
(へえ、案外いいじゃないか)
 自由を奪われたといっても、元から了は国家に仕える兵士だし、ヤマトの末裔だとじろじろ見られるのにも慣れている。
 どうも了は執着心というものと縁遠いらしく、住処を強制的に移されるということになっても、ただ眠る場所が変わるだけ――といった程度の認識しか持てなかった。
 側近の部下は一方的に喚き散らしながら宿舎まで了を案内すると「次の指示を待て」と言い捨て、去ってしまった。了は彼の姿が今来た小道を折れて消えてゆくまで見送ってから宿舎の玄関扉に手をかけた。
「はぁ……。これから毎日あいつの喚き声につき合わなきゃならないのか? あれじゃ、オヤジの説教の方がマシだ……っと……あれ? これ、開かないじゃないか」
 鍵を差しこんでみるが、穴が錆びついているのか鍵を回せない。ガタガタと扉を揺さぶっていると、玄関から最も近い窓が静かに開かれた。カーテンが半端に開かれ、その隙間から青年の右半身がのぞく。
「そこは開かない。いや、開くが少し時間がかかると言ったほうがいいかな。召使いの話だと、建物が古くてガタがきているそうだ。君は? 新入りか?」
「ええ、そうです」
 了は窓からこちらを眺めている青年に胡乱な返事をした。自分の他にもこの宿舎に人がいるとは思わなかったため、驚いたのだ。
 なんて綺麗なひとだろう……。
 羨ましい。素直にそう思った。黄金色の髪に青い瞳。特に長い髪が了の目に眩しく映る。フレデリカやユリウスたちとも、ネイとも違う、鮮やかな黄金の髪は外気にたなびいて、まるで太陽の光のようだった。仕立てのいい白いシャツに、黒いボトムを身につけている。
 人間の顔はたとえどんなに整っていても、左右で違っているというが、了に行き先を示した男はそのずれのようなものがほとんどなく、そのせいか、綺麗だが人間くささが失われているように感じた。
「ここに住むのか?」
「はい、ちょっと事情があって、急なんですけど」
「……ふぅん、そうか。君か」
 青年は無遠慮に了を眺め回した。まるで値踏みされているようで、あまりいい気持ちではない。ヤマトの末裔と同居するのが嫌なのだろうか――だが、了とて望んでここへ住まうわけではない。
「反対側に勝手口があるから、そっちへ回ってくれ」
「はい」
 どうせ自分には毎日任務があるし、どうせこの宿舎とて、前の住処と同じように寝泊りをするだけだろう。でも、同居人がいるのなら挨拶くらいはするべきだろう。了は勝手口のドアを開け、宿舎の中に入った。
 中は思ったよりずっとがらんとしていた。フローリングの床に、クリーム色の壁紙。勝手口から中に入ると、キッチンと広いリビングがある。キッチンはあまり使われていないのか、ざっと見たところ食糧や調味料の類は少なかった。
 今は明かりが灯されていないが、部屋の中央に傘の大きな照明器具がある。ローテーブルと柔らかそうなソファーセットがあり、そこで先ほどの青年がソファーに埋まるように座って、物憂げに外を眺めていた。
「はじめまして。俺の名前は了・バイルシュミット。この宿舎には今、どのくらいの人が寝泊りしているんですか?」
「瑪瑙だ。ここには私と君の二人だけだ。私は右側の部屋を使っているから、君は左を使うといい」
 瑪瑙は、すっと立ち上がって、こちらに近づいてきた。
「あ……」
 その時初めて、了は彼の着ているシャツの左側が、金魚の尻尾のようにひらひらと泳いでいるのに気がついた。
(このひと、左腕が……)
「腕がないのが珍しいのか?」
 心の裡を見透かしたように美貌の男は肩をすくめ、からかうように言う。宿舎の中にはまだ明かりがついておらず、暮れ始めた夕焼けを背にしていたために彼が今どんな表情をしているか分からなかった。
 気を悪くしたかもしれない。肉体的欠損を無遠慮に眺められるのは自分だってあまり愉快ではないものだから――了は首を横に振り、上着の左袖についているファスナーを全開にして赤いアームカバーを見せた。
「いいえ。俺も左腕がなくて。これ、義手なんです。だから、同じだなと思って……」
 青年は僅かに目を見張って何かを言いかける。瞬間、リーン、ゴーン……と聞き慣れた鐘の音が鳴り響いた。
 丘の上の天使像を、誰かが起動させたのだ――。
「夜の鐘だ……」
 了は鐘の音に聴き入りながら、小さく呟く。
 昨日までそれは自分の役目だった。
 自分がいなくても鐘はきちんと鳴って、夜を報せるのだ――。
(そりゃ、そうだ。兵士なんかいくらでもいるし、俺の代わりなんて何十人もいるんだから)
 朝はやがて夜になる。夜がくれば朝がくる。他の任務で足りなくなった兵士は他からすぐに調達され、国から新しくその任を仰せつかる。そんなことは当たり前だ。
 頭の中では理解しているつもりだったのに、了は苦しいような哀しいような理不尽なような、不思議な思いに囚われてしまい、口唇を水平に結んだ。
「ほう、これが義手なのか」
「……っ?」
 不意に左腕を掴まれ、身を竦ませる。
 美貌の青年は自分より背が高くて、大きな手はがっしりとしていた。窓の外では湖畔に沿って設置されている外灯が次々に灯ってゆき、宿舎の中にもパッと眩しいライトがついた。
「俺、赤ん坊の頃に戦争で左腕と左目を失くして……だから、目も義眼そうです」
「おや、明かりがつくまで分からなかった。瞳の色はともかく、腕は到底作り物とは思えないな」
 青い瞳の目尻が下がる。笑うと意外に優しげだ。了は少し安心し、男に微笑みかけた。
「ありがとう。それ、オヤジの作ってくれた特別な腕なんです。ただついているだけじゃなくって、普通の腕みたいに動かせるんですよ」
「凄いな。君のお父さんに頼めば私の腕も作ってもらえるかな?」
「父親っていっても義理の親ですけどね。本当の父親は戦争で死んだみたいだから。義手ですか……普通のものならすぐですが、これはちょっと、どうかな」
 金さえ払えばネイならいくらでも精巧な義手を作ってくれるだろう。だが、了のこの神経節まで繋がっている義手はネイいわく「仕事の合間を縫って作り上げた一世一代の自信作」だそうだ。全く同じものは二度と作れないと言っていた。
「まあいい、片腕でいるのに慣れてしまったから、たいして困ることはない。それより」
 シンメトリーな顔が近づき、了は再び身体を強張らせる。
「君がどういった経緯でここに寝起きすることになったのかは知らんが、そう一々怯えられても困る。そのドッグタグを見るに、君は国軍の兵士……そうだな?」
「はい、そうです」
 了は自分の胸元にぶら下がっているタグを右手で弄ぶ。瑪瑙は続けて言った。
「別に私は君の上官じゃない。ただの流れの商人だ。畏まった言葉で話す必要はないよ。いつまでも出入り口なんかに突っ立っていないで、こっちに来ないか? さっき茶を入れたんだ。多分、まだ温かいはずだ」
「え? いただいていいんですか? その……」
 初対面でこんなに親しく口をきいてもらったのは初めてだ。綺麗な上に、なんて優しいひとだろう。了はすすめられるまま荷物を床に置いて、先ほど彼が座っていたソファーの向かい側に腰掛けた。
「了って呼んでいいかな? 私のことは〈瑪瑙〉でかまわないから」
「あ、はい」
 瑪瑙は、キッチンからティーカップとポットをサービスワゴンに載せて押してきた。透明なティーカップの中には普通の紅茶ではない。湯の色は透明で、茶葉の代わりに生の葉が入れられている。
「それは?」
「レモニーミントだが、好みに合わないかな?」
「違います。そんな高級そうなもの、初めて見たから。いい香りですね」
 瑪瑙は片腕しかないことを忘れるほど流麗な仕草で、ポットの中に入っている透明な液体を了のカップに注いだ。了はおそるおそるそれに口をつける。
「美味い……」
 口に含むと強烈な香りになるかもしれないと思ったが、意外と口当たりは柔らかい。嚥下してみると、ミントの清涼な香気が体内に流れて心地よかった。
「それはよかった。昨日、珍しく生のハーブが仕入れられたから、こうして城まで持ってきたのだが、正式に取引をしている商品以外は検閲が必要なんだ。そのことをすっかり失念していた。『検閲が済むまで城下町にいるように』というお達しが下されたまではよかったのだが、馬鹿な役人がこれを怪しい薬物に似ていると言い出してね……」
「だから、こんな兵士用の宿舎に押しこめられているんですか?」
 城内に仕える者の一部が、いつもより警戒心を強めているのだ。自分のせいだ。自分が昨日、国王の秘密に踏みこんでしまったから、このひとはそのとばっちりで軟禁されているのだ。了の心に僅かな影が差した。
「……災難でしたね」
「全くだ。薬物やら毒物やらを持ちこむんだったら、もっと上手くやる」
 瑪瑙が真面目な顔でそんなことを言い始めるので、つい吹きだしてしまった。
「いけませんよ。これでも俺は国軍の者なんですから、そういう悪巧みはよそでやって下さい」
「怖いな。私を処刑するかい?」
「お望みなら、古の神さまの御使いのように」
 ハーブティーを飲み干して、ソーサーへと戻す。
「気に入った。いつまで同居することになるか分からないが、あんまりつまらない相手と一緒にいるのは嫌だったんだ。家族のようにとは言わないが、もう少し楽な言葉で接して欲しい」
「家族って言われても……瑪瑙みたいなひとと、あの頑固オヤジを同列に扱うのは無理……」
 了がもごもごと口ごもっていると、瑪瑙は愉快そうに目を細めた。ローテーブルを挟んだ向かい側から身を乗り出して、右手で了の顎を上向ける。
「え?」
 大きな青い瞳が間近にある。産毛まで金色をしているのだなと了が感じ入っていると、頬に軽くキスをされた。
「……何、すんだよ、いきなりっ!」
 瞬時に頭に血が上る。顔中が真っ赤になっているのが自分でも分かった。丁寧言葉を忘れ、感情に任せて瑪瑙を突き飛ばした。
「ふざけんな! か、返せ、初めてだったんだぞ、馬鹿野郎……っ!!」
 辛うじて殴りつけることだけは思いとどまった。怒鳴ってしまってからハッと気づく。
 そういえば、上流階級の人間は日常的な挨拶として、家族や友人にキスやハグをすると聞いたことがある。
「ごめん、その、俺そういうの慣れてないから……」
 そうだ、今のは挨拶だ。しかも、俺は何てことを口走ってしまったのだろう。馬鹿みたいだ――。
 急に恥ずかしくなってしまった。了は消え入りたいような気分でもごもごと言い訳をして、瑪瑙の右腕を取って床から助け起こす。てっきり怒っていると思ったが、瑪瑙は了を見て片眉を上げて笑い、立ち上がるとそっと耳打ちをした。
「どうした? 男同士のキスは初めてか?」
 ――違う。
 分かっていてやったのだ。からかわれたのだ。それが分かると、了の目元が再び切れ上がり、瑪瑙の澄ました顔を正面から睨みつけた。
「男同士とかじゃなくて! くっそ、煩いな、そんなの、女とだってしたことないよ! 悪かったな!」
 瑪瑙は了の言葉を受け、首を傾げる。
「女とも? 不能なのか?」
 あけすけな台詞が刃物のように胸に突き刺さる。了の耳は、これ以上ないほど赤く染まった。
「バッ……。違うっ! あのなぁ……俺の髪に目、見りゃ分かるじゃないか! 寄るだけで〈不吉を呼ぶ〉ヤマトの人間と寝たがる物好きな女……っ、いるわけないだろ!?」
 瑪瑙は了の言い訳を最初のうちは黙って聞いていたが、途中から堪えきれなくなったようにくすくすと笑い始めた。
「もういい! あんたがどういうやつか、ちょっとだけ分かったよ!」
「それはどうも」
 嫌味をぶつけても涼しい顔で返される。腹が立ったが、同居初日から喧嘩をしたくない――いや、それは多分建前で、実のところ言い負かしてやる自信がなかったため、了は小さくため息をつき、気分を切り替えることにした。
「で、ここって飯はどうしてるんだ? キッチンは使っていないようだし、ざっと見たところ調味料もあんまりないみたいだけど」
「食事? それなら召使いが運んでくる。食べ終わったら外に食器を置いておけば朝には片付いているよ」
「へえ、そうなんだ……どうも。じゃあ俺、部屋を見てくる」
 足元に落ちたままだったバッグを手にすると、了は逃げるように自分用に割り当てられた寝室へ向かった。


 冷たい夕食を胃袋におさめてシャワーを浴びてしまうと、もうやることがない。了はネイビーのパイル地で出来た寝間着に着替えると、マットレスに足がついただけのシンプルなベッドに横になった。
 本の一冊でも持ってくればよかった……と、遅まきながら後悔する。寝室は綺麗に片付いていて、木製のクローゼットと姿見と、背の低い空の棚くらいしか物がなかった。
 棚の上には、了が唯一ここへ持ちこんだ私物のバッグが置かれている。着替えなどの日用品は全て城側で用意するため持ちこまなくてよいと指示されたため、中身は義手の簡易メンテナンス用キットと懐中時計だけだ。
 メンテナンス用キットなどといっても、アームカバーの上から汚れを取る専用の薄い洗剤と布、それと注射器と謎の液体が満たされた薬品パックが三つばかり詰まっているだけである。
 ――今ごろネイは何をしているだろう。
 無意識に左腕をさすっていると、養父の偏屈な横顔が思い浮かんだ。
 このくらいの時間ならまだ、機械いじりしごとをしているだろうか?
 任務で城へ行くという話はしたが、まさか今自分が、王宮内に閉じこめられているなどとは思うまい。
 自立して以来離れて暮らしているため、以前のように毎日顔を合わせるわけでもなく、しばらく了がネイの元へ寄りつかなくとも、任務が忙しいのだろうとしか考えないだろう。次のメンテナンスは一週間後だが、了がメンテナンス日を守らないことはそれほど珍しくないから、すぐに不審がられはしないはずだ。
 次に顔を見せられるのはいつになるだろう――。
 咎人ではないため、秘密さえ守れるなら監視つきで外出は許されているが、見張りと共に訪れれば、いったい何をしでかしたのだと質問攻めにあうだろう。おかしなもので、来いと言われると行きたくないのに、いざ会えないとなると途端に心細くなる。
「……退屈」
 呟いてしまうと、余計にそう思った。ベッドに横になってみたものの、まだまだ眠気は訪れそうにないし、真っ暗闇の中、外へ散歩に出る気にもなれなかった。
「あいつは、何してんのかな」
 ふと同じ屋根の下にいる瑪瑙のことを考える。食事が運ばれてきた時に顔を合わせたが、居心地が悪くて最小限の言葉しか交わさなかった。トレイを自室まで運んで一人で食べ、彼に言われた通り空のトレイを出入り口の傍に置きに行った時には、瑪瑙も自室に引き上げているようだった。
 綺麗なのに、どことなく暗い影のあるミステリアスな青年。ヤマトの末裔である了を疎んじる素振りがないのは有難いが、あんなことをされたのは初めてだったから、顔を合わせるとつい避けてしまう。
「でも、あれ・・・があったから対等に話せるようになったんだし……瑪瑙はそこまで考えてくれていたのかな……」
「呼んだか? まあ、好意的に解釈するなら、そうかもな」
「!」
 いきなり声をかけられ、了はベッドから跳ね起きた。いつの間にかドアが開かれていて、そこから瑪瑙が姿を現す。シャワーを浴びて服を着替えたようだ。白いシルクの寝間着に、髪から少し水滴が落ち、なぜかそれがやけに官能的に映った。
「いきなり入ってくるなよ。驚くだろ」
 了は文句を言いながら目をそらす。
「一応ノックはした。ここは退屈だろう? せっかく新しいルームメイトが出来たのだし、ささやかながら歓迎会でも開こうかと思ってな。と、いっても大した肴もないが」
 瑪瑙はそう言って右手に下げたボトルを軽く上げてみせる。
「酒? へぇ、そんなものがここにあったんだ?」
 初めてお目にかかるボトルだ。了はあまり酒には興味がなかったが、ネイが好むのでしょっちゅう酒屋へ買い出しにいかされた。種類は何だと訊ねると、瑪瑙は「貴腐ワインだよ」と答えた。
「キフ……? 何だそれ、初めて聞いた」
「知らないのならまずは試してみないか? もしもこれが駄目だとしても、ビールがある」
 瑪瑙の言葉に、一も二もなく頷く。いきなりあんなことをされたせいで警戒心を抱いてしまったが、こんなに最初から友好的に接してもらったのは初めてだ。酒はあまり強くないけれど、自分の部屋で飲むのなら潰れてしまっても相手に迷惑をかける心配はない。
「分かった。ビールとつまみはどこ? すぐ持ってくるよ」
「キッチンの床下。シンクの下にある収納スペースに、ソーセージの瓶詰めとピクルスがあったはずだ」
「上等!」
 歓迎会などと言われると面映いが、退屈な夜に酒を酌み交わすのは大賛成だ。この機会に瑪瑙の身の上話などをもう少し詳しく聞いて、仲良くなれたらもっといい。了は瑪瑙を部屋に招き入れると、キッチンに向かって軽やかに駆けていった。


☆第7回は5月13日(木)0時更新予定です。どうぞお楽しみに♪


by 玉置真珠 ¦ 00:00, Friday, May 07, 2010 ¦ 固定リンク ¦ コメント(4) ¦ コメントを書く ¦ トラックバック(0) ¦ 携帯

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いよいよファーストインフ゜レッションですね♪

これからお話がどう展開されていくのか・・・

非常に楽しみです。


名前: エシディシさん ¦ 12:05, Friday, May 07, 2010 ×


これらのレプリカのハンドバッグは、で出てくる行うに私の好きな%uE2808B%uE2808Bthnigsの一つは、(おそらく極めてsockingされていない)デザイナーのレプリカのハンドバッグを見てですが、私は広告が英国に悪影響を及ぼす可能性があると思います、私は実際にそれらのすべてを見て愛しているので、驚くべきものだ。それは奇妙な人が実際に広告が好き傷つけるのですか?まあ、それはそうであっても、私は絶対にレプリカブライトリングの時計は、彼らが戻ってドロップとして選んだことが大好き。私は、我々が時間内に戻っているようなものになって持ってきて、MONTRESロレックスこれら本当に私が愛している洗練さを披露している!あなたには、いくつかのショッピングのレプリカのハンドバッグのための気分で得ている?私は私が知っている!


名前: Hermes handbags ¦ 17:14, Saturday, May 04, 2013 ×


よく書かれていますが、私はあなたが良い書き込むことができると思います!


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