千年ノ祈リ

 アノーは首を仰け反らせ、唇を求めた。噛みつくような口づけに、ヒューが困ったように笑っているのが、唇の形で伝わってくる。笑われても、揶揄されても、かまわない。呼吸もままならずに、苦しくて、めまいを起こすほどの激しいキスをしたかった。

 貪るような口づけの途中で、部屋の前を通り過ぎる足音と人の話し声が聞こえ、アノーは体が強張った。部屋に入ったときアノーは興奮状態だったし、他人の部屋なので鍵はかけていない。ヒューはどうだったか。

 体の下から不安げな顔を向けたアノーを見て、ヒューがふっと表情を崩した。

 ヒューはベッドを下り、鍵をかけに行った。そして再び戻ってくると、ベッドの前で衣服を脱ぎ捨て全裸になった。

 身の丈ほどもある重たい剣を自由自在に操るヒューの腕は筋肉で太く、腹も割れている。制服を着ているときにはわからなかったのだが、さすがは軍隊並の訓練を受けているだけあり、思っていたよりもたくましい肉体だった。

 一般的な男性と比べても小柄というわけではないので、アノーは自身の線の細さを否定的感じたことはなかったが、ヒューに体をさらすのが恥ずかしくなった。

 だが、アノーのそんな思いとは裏腹に、ヒューはシャツやパンツのボタンを外していく。下着もすべて取り払い、ヒューが覆いかぶさってくる。

 さらりと黒髪がアノーの顔をなで、くすぐったかった。指に絡ませ遊んでいると、顔に影がかかった。軽い口づけをして、ヒューはすぐに顔を離した。

 深いブラウンの瞳は優しく、口角も上がっており、ヒューはいつも穏やかな表情をしている。だが今は、氷を溶かしてしまいそうな、熱のこもった目をアノーに向けてくる。

「アノー」

 声にも艶が混ざっているように感じた。ヒューが名を呼ぶたびに、アノーの体が熱くなっていくような気がする。押しつけ合う互いの下半身にも、変化が現れつつあった。

 唇が首筋に触れただけで、アノーの腰にしびれが走った、のど仏をなめられ、鎖骨、胸、鳩尾、へそ、舌がゆっくり下りてくる。その柔らかな刺激にたいして、アノーは強く反応し、びくびくと体が震えた。

 大きな手のひらがアノーの高ぶりを包み込んだ瞬間、太ももが震えた。恥ずかしくて、どうにか逃れようとしたが、体に力が入らずできなかった。

「あっ、んっ、……ふっ」

 ヒューの手がアノーの性器をゆるゆると上下にしごくと、じわりと先に体液がにじんだ。ヒューは親指でそれをすくって広げ、先端部分を刺激した。

「はぁっ、……、あぁっ」

 そのまま熱い口の中に、ずるりと引き込まれた。射精感が込み上げ、アノーはヒューの頭を押し返す。一端唇を離してくれたのだが、それで終わりではなく、今度は舌でゆっくりとなめ上げられた。唇をすぼめて先端を吸い上げ、舌先で尿道を突いてくる。

「あっ、あっ」

 裏筋をなめられると、鳥肌が立った。アノーは腰を引こうとするが、ヒューはアノーの太ももに腕を回し、逃れられないようにする。そして腰に触れたり太ももをなでたりしてなだめた。

 こんなふうに丁寧に触られたことがなく、アノーは羞恥と戸惑いとで頭がいっぱいになった。どうすればいいのかわからない。おとなしく身を委ねてしまえばいいのか。

 仮面舞踏会のときにもされていたが、あのときは薬のせいで、頭がまともに働いていなかった。ヒューの行為の意味を考える余裕もなく、与えられる快楽に、ただ従順になっていただけだった。

 だが、今は違う。アノーは自身の意志でヒューを受け入れたのだ。ヒューに触れたかったし、ヒューに触れてほしかった。

 長い指が奥のすぼまりに触れ、アノーは身を硬くした。ヒューの手は男の体を探るのに戸惑いや躊躇が一切なく、手慣れているのが伝わってくる。それに、自身が女のように受身の態勢になっていることや一方的に快感を与えられることには違和感がある。

「ヒュー。お前、男との経験があるのか?」

 掠れた声が出た。アノーの緊張をほぐすように、ヒューはアノーの性器を舌で転がし、唇で愛撫し続ける。だが、答えない。

「あっ……、ヒュー」

 アノーがもう一度名を呼ぶと、下腹部に顔を埋めた状態のまま、目だけをこちらへ向けてきた。視線が絡まり合うと、ヒューは性器を口に含んだまま、目だけで笑いかけてきた。

「こういうときに、それを聞くんですか? アノーってば、野暮ですね」

「だって……」

 気になるじゃないか。

 女好きのヒューのことだから、相当の経験を積んでいるのは容易に想像つくし、それに関してはなんとも思わない。だが男も数に加わるとなると話は別だ。それにヒューが後ろに触れてきた意図もわかるから、ためらいも生じた。男の身でありながら男に体を開こうとしている自分に戸惑いを感じた。

 ヒューは性器から唇を離し、顔をアノーへ近づけてくる。

「まあ、主に女性ですけどね」

 ということは、男と寝たこともあるのだ。

 比較対象がいると思うと、プレッシャーを感じる。ヒューはどのような男を相手にしてきたのだろう。アノーのようなタイプなのか。それともまるで正反対なのか。一度考え始めたら、そちらにばかり気を取られて、上の空になった。

「なにを考えているんですか?」

「別に」

 のぞき込んでくるヒューの視線を避け、アノーは顔を横に向けた。自分から話を振っておいてなんなのだが、なんだかおもしろくない。ヒューは彼らを、どのように抱いたのか。彼らはどのようにヒューに触れたのか。

「やきもちを焼いているように感じますけど」

「そんなわけ……っ」

 アノーはヒューに向き直り、ヒューの言葉を即座に否定しようとした。が、途中で言葉を止めた。感じているのはプレッシャーではなく嫉妬なのかもしれないという思いが、一瞬頭を過ぎる。そんなはずはないのに、ヒューの目を見て断言することができなかったのだ。

「今の私の心は、すべてアノーにありますよ」

「そういうことは、相手が変わるたびに言っているんだろ」

 アノーは唇を引き結び、また、そっぽを向いた。過去のことを今さら言っても仕方がないし、過去に嫉妬するほど強い思いをヒューに抱いているとも思わないのに、なぜかアノーは小さくいら立っていた。

 視界の端に映るヒューは小さく笑い、アノーのほおにキスをした。余裕を感じさせるその態度は、アノーの心の内を見透かしているようで焦りを感じたが、落ちてくる唇を避けようとは思わない。

 顔やのどなどに口づけを繰り返しながら、ヒューがアノーのひざを立たせた。ひっそりと隠れていたそこが露になる。

「あっ……」

 指が、柔らかな肌の感触を味わいながら、硬く閉ざされた中心部をほぐしていく。そして舌も下りてくる。

 とがらせた舌の先が襞を引っかけながら、すぼまりをこじ開けようとうごめく。

「……ふっ」

 舌はアノーの体の内側から刺激を与えてくる。触れられたことのない場所に触れられ、しかも何度も口づけをされて、先ほどまでにのいら立ちが頭から吹き飛んでしまうほどの羞恥を感じていた。

 送り込まれた唾液を絡ませた指の先が、じわじわと体の中に埋め込まれていく。

「あっ、あっ、あっ」

 次々に指の数をふやされ、体の中で指が動く。浅く抜き差しを繰り返されるたびに、アノーは吐息とも喘ぎともつかない声を漏らした。

 

 

 

 

 

 

この続きは、2010年2月26日発売の
千年ノ祈リ
でお読み頂けます。どうぞお楽しみに!

 

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